
さいたま市 一戸建てがわかる
アパートの上棟式にしては豪華で、折詰も出たし、酒も入り、賑やかであった。
T氏は、柱がいい材料なので、気分をよくして、二回も酒をついで回った。
僕もすっかり気分がよくなり、支店長と冗談の軽口をたたいたりした。
上棟式が終わったのは、六時であった。
帰り道を歩きながら、突然、僕は引っ越しの立会いがあったことを、思い出した。
「しまった。
四時の約束だったな。
でも、六時では、どうしようもない。
駆けつけても、いないだろう。
確か、電車に乗って、遠方に行くと言っていたな。
でも、まちがいは、まちがいだ。
今からグリンピアに駆けつけよう」僕は、あせる心を抑えながら、家に荷物を置くと、マンションに向かって走り出した。
「怒っていましたよ、社長さん。
電車に乗らなくてはならないのに、四十分は待っていたわよ。
約束したのに、すっぽかすのは、ひどいってね」隣に住む家主は、僕の顔を見るなり、嫌みを言った。
「申し訳ございません。
急な用事が出来まして、すっかり忘れてしまいました。
こみいった仕事だったものですから、うかつでした。
本当に、Kさんには、ご迷惑をおかけしましたので、謝っておきます。
忘れっぽくて、自分でも困ってしまいまして」翌日の朝に福岡市に電話を入れたが、留守であった。
僕は気になって、十二時に電話を入れると、やっとつながった。
「申し訳ございません。
せっかくお約束していたのに、急な用事ができて、難しい問題となったものですから、うっかりしてしまいました。
駆けつけたのですが、遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした」「ずっと待っていたのに、困りましたよ。
で、中をご覧になって、どうでした?よごしてないでしょう。
私が入居の時から、少し破損やキズがあったのですが、この点は、社員の方に通知してあります」「カギは、二本預かっていますから、中を見てくださいね」「はい。
明日にでも、Kさんに電話します。
どうも、ご迷惑をおかけして、恐縮です」すっかり弱りきって、僕はカギを受け取り、その足で三階の室に入り、点検した。
相手は意外に平静な話し方をした。
僕は、内心ホッとした。
いくらしかられても、嫌みを言われても、僕の負けである。
だが、相手は、言いたいことをズバリと指摘してきた。
室内を点検したところ、少しずつ修理箇所はあり、Kさんの負担となる部分もあった。
その室は、運良く次の入居者が決まっていた。
DKのフローリング床のキズや、クロスのクギ穴のキズ、エアコンのクギ穴のキズ、クロスのジュースのシミ等、少なからずあったのである。
だが、この程度なら、業者に頼まないで、僕が修理できる。
通常は、いそがしいので自分でやらないだけである。
僕がやれば、一円もかからない。
業者に依頼したら、一万二千円ぐらいかかるだろうか。
でも、仕方がない。
サービスする以外にないだろう。
「ええ、きれいでしたよ。
少し直しがありますけど、ご迷惑をおかけしたので、私の方で調整いたします。
わかりました。
敷金の精算は、一カ月後になりますけど、最少の範囲でやらせて頂きます」いやはや、とんだ失敗をやらかしたものである。
お陰で、この忘れものは高くついてしまった。
この次からは、絶対忘れないようにするからな、と、内心ひやひやしながら、僕は心に誓った以上が、僕のモノ忘れ論であるが、実際にはひどいことになる。
どんなにいそがしくても、忘れたことに変わりはないから、恥はかくし、相手にも迷惑をかけるし、ひたすら謝ることになる。
平身低頭、心から頭を下げるだけである。
中国人女性のRさんが、来社したのは、十二月半ば前である。
十二月は、僕等にとってシーズンオフであり、来客数も少なく、営業成績も上がらない。
師走でいそがしいが、実入りのない月といえる。
アパマンの空室も決まらず、少ないお客様を大事に接客して、サービスに努め、サービスでお客様の人気をとらねばならない。
親切ていねいにお世話すれば、お客様もある程度は予約してくれる。
もし、ここで決めておかないと、年末と正月はダメで、二月まで入らないことになる。
だから、一生懸命入れようとするが、決まるかどうかはお客様次第だし、需要と供給のバランスの問題である。
特に家主は、借手の要望に応えられるように、条件をのむことを要求される。
もある。
特に家、弄時代、ともいえる。
消費者の土曜の昼下がりに、一人の若くてスラリとした女性が、スーツを着て、入ってきた。
「いらっしゃいませ。
お室をお探しですね」動きの良いK嬢が、会釈して、声をかけた。
「そちらのコーナーに、賃貸のパンフレットがございますから、自由にご覧くださいませ。
一Kですね?上段に揃えてございます」すると女性は、ていねいにおじぎをして、物件のパンフレットを一枚一枚めくりだした。
しばらく立ちながら、その動作を続けた。
五分ほどして、僕は彼女の動作に気づき、奇妙な思いにかられた。
日本の女性なら、辛抱強く自分で探さないで、こちらに接客を要求する。
自分の考えを述べないで、どういう物件があるのか、先にこちらの状況を聞く。
しかも、立つのが嫌いで、間取り図を手に持つが早いか、カウンターにすり寄って、ドカリとイスに座る。
ところがこの女性は、立ったまま自分で探そうとする。
姿勢もいいし、軽やかで柔らかい。
K嬢が、机の仕事を休めて、女性に近づいていった。
「どうですか?良さそうな物件、ありました?」「はい、コレ、すぐ入れます力?このアパートメント、新しいデスカ?」発音が違うので、初めて外国人とわかった。
顔や体形からすると、韓国人か中国人であろう。
接してみて、堅い態度は韓国人、柔軟な態度で、にこやかなのは、中国人である。
「お勤めしていますか?日本の会社?そう、すぐ入居できますよ。
空いていますし、リフォームも終わっていますから」K嬢は、切れ長の涼しい目をして、相手に質問した。
そうしながら大事な事項を聞き出し、自分の考えを相手に伝え、思い通りに相手を誘導する。
お客様の心を読みながら、自分のペースに巻きこむ、機転にたけた仕事師である。
一流企業に勤めた経験もあるので、受け答えにソッがない。
「勿論、日本の会社勤めネ。
心配ないョ」彼女は、カギとスリッパを持って、並んで歩き出した。
「社長、いかがでしょうか。
中国大陸の女性で、コート。
ダジュールが気に入ったそうです」そう言われて、僕はカウンターの前に立った。
外国人を入れるかどうかは、トップである僕の決裁事項である。
「こんにちは、中国の方ですね。
もう、日本に住んで、長いのですか?」僕は、相手をじっくり観察しながら、日本語が通じるように、やさしくゆっくり話した。
「もう、三年以上なるネ。
日本語、わかります。
日本の習慣、わかります」「生まれは、どこですか?ユーア。
バースプレイス。
北の方、南の方?」「北京でス。
北京の少し田舎ネ。
中国、来たことあります力?」「ええ、三度旅行しました。
北京は、大きい街ですね。
ビルがたくさんね。
道は暗くて、商店ないけど、大きい街ね。
お勤めは、どういう会社ですか?」「さきほども、女性の方に言いましたけど、航空会社ネ。
社長さん、旅行好きネ」「ええ、いつも海外に行きます。
サイトスィーイングね。
それと、民族の習慣と風俗の研究をやります。
航空会社なら、エリートですね。
」
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